先日,いろいろなタイプの伊奈川花崗岩の露頭を案内してもらいました。その際に久しぶりに暗色包有岩を観察しました。私は花崗岩について詳しくありませんが,今までに見た暗色包有岩も含めて紹介します。
花崗岩の中に黒っぽい礫のようなものが含まれているのはよく見かけることがあります。以前はゼノリス(捕獲岩)*などといって,花崗岩マグマが上昇してくる過程で周りの岩石を取り込んだものと考えていました。吉倉・熱田(2000)*の論文を読んで,はじめてマグマの混交・混合という言葉を知りました。マグマの混合(Magma Mixing)は起源の異なる2つのマグマが上昇過程で混ざり合うことです。
なごやの大地を学ぶ会会報no.14で紹介したように,プレートが沈み込むところでは,マントルに水が供給され,マグマができやすくなります。このマグマはMgやFeを比較的多く含む玄武岩質(苦鉄質)です。マグマは周囲の岩石より密度が小さいため上昇をし,地殻とマントルの境目(モホ面)や地殻下部と上部の境目など,密度差のある所で停滞しマグマ滞留場(マグマだまり)をつくります。マグマ滞留場では,マグマの量も多く温度も高く,また母岩の温度・圧力も高いので溶融作用が起こりやすく,周囲からの溶融物が多く混合してきます。珪酸分の多い地殻を融かし,安山岩質のマグマや,花崗岩質のマグマをつくります。マグマ滞留場は,下から苦鉄質マグマが供給され続け,高温状態が維持されているため,玄武岩質(苦鉄質)マグマと流紋岩質(珪長質)マグマとの混合が起きやすい環境です。マグマはモホ面付近に滞留したのち,上昇して浮力の釣り合った地点にマグマだまり(地下10kmから3km程度のところ)をつくります。マグマだまりはいくつかの深度で形成されるのではないかと予想されています。密度や温度などが違うマグマは,マグマだまり内で対流を起こし,混合が起きるようです。ただし,上方のマグマだまりは冷却しはじめているため,温度も低く粘性が大きいので,マグマが均質には混ざりにくいと考えられます。苦鉄質岩脈や苦鉄質火成包有岩(Mafic Magmatic Enclaves: MME=暗色包有岩)は苦鉄質マグマ(高い融点=早く冷え固まる)が珪長質マグマ溜りに貫入して急冷して生じたと考えられています(混合のメカニズムはいくつかあるそうです)。暗色包有岩は細長く伸びたり,丸みを帯びているものが多く,混合時には流体の状態であったことは容易に想像できます。
当日,案内していただいた露頭では,暗色包有物のほかに多くのアプライト脈や,採石の跡も見られました。また,花崗岩による接触変成を受けた部分が同じ地域に狭い場合と広い場合の同時期のペアが存在する場合,変成域が広いところは常にマグマが加熱される環境(熱を逃がさない)であり,逆に,変成域が狭い地域では火山噴火などで熱を逃がしたと考えられるとのお話があり,とても興味深く感じました。この研究は,本宮山地域を調査例として,GEOLOGY,2023*3に報告されています。
*1捕獲岩(ゼノリス)は、火成岩に含まれる異種の岩石片のこと。マグマが上昇してくる途中で周りから取り込まれたもので、マグマの熱により変成している場合が多い。
*2吉倉紳一・熱田真一,2000,月刊地球号外30,140-145.
*3 K. Yamaoka,S.Wallis, A.Miyake, and C.Annen, 2023, GEOLOGY,20
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