記事025   チャートの上に立つ彦根城の見学

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滋賀県彦根市の彦根城に久しぶりに行ってきました。平日ですが,天守閣の修復工事による見学中止が解除された日のためか,多くの観光客でにぎわっていました。アジア系の外国の方が多い気がします。石垣の組み方が名古屋城などと違い興味を持ちました。

(1)彦根城と周辺の地質
彦根城は彦根市の北部にある標高100~130mほどの岩山に建っています。東には佐和山を含む230m~150mほどの山地が南北に走っています。図1の茶色の部分がチャートで,灰色の部分が混在岩です。ともにジュラ紀の付加体です。

図1 彦根城周辺地質図 (URL1)

彦根城はチャートという硬い岩石からなる山の上に築かれています(図1)。チャートは現在でも表門や黒門付近(図2)の通路などで見られます。ところが石垣を見る限りチャートは見られません(石材のすき間の小片などには使われているそうです)。石垣の岩には蘚苔類や汚れなどが付いていてはっきりはしませんが,白っぽい岩石が多く見られます。これらの岩石は「湖東流紋岩」と呼ばれる

溶結凝灰岩です。溶結凝灰岩は火砕流の発生などに伴い空中に放出された火山灰などの噴出物が大量に地上に降下した後に,噴出物自身が持つ熱と重量によってその一部が溶融し圧縮されてできた凝灰岩の一種です。火山活動は今の永源寺付近に中心があったようです。岐阜県にみられる濃飛流紋岩と似ています。この岩石は彦根城の載る岩山では見られないのでどこかから運ばれたことになります。湖東流紋岩は彦根城の近くでは数km南方にある荒神山で見られます。荒神山では彦根城の築城・修復の時期とほぼ同じころに切り出していた石切り場が残っているそうです。かなりの量をここから切り出して運んできたと考えられています。荒神山以外では安土城のあった繖山(きぬがさやま)(432m)や(かく)翼山(よくざん)(283m)で見られます。彦根城の石材は流紋岩質凝灰岩,花崗斑岩,デイサイト質凝灰岩の組み合わせが主なものですが,花崗岩や花崗斑岩も見られます。花崗斑岩は近江八幡市沖島や,長命寺山周辺で見られます(図3)。

図2 彦根城のチャート(黒門付近)
図3 高等流紋岩類の分布(彦根市教育委員会,2010を改)

(2)彦根城の石垣
 彦根城の石垣をざっと見た時に感じたのは,大きな岩の間に,比較的小さな岩が多く挟まれているところがある(図7・図8)ことと,()(あな)痕の見られる切石が多いなということです(図4)。矢穴は,石材を割る際セットウ(金槌)とノミ(鑿)を使って,掘った穴です。この矢穴の幅が広いものは慶長期など比較的古い技法といわれます。彦根城で見られるものは10cm~15cmもありそうです。彦根城の石材は安土城跡から運ばれたともいわれていましたが,安土城跡では矢穴痕は全く見られないそうです。安土城跡も大半が湖東流紋岩(凝灰岩)であり,帯磁率もほぼ同じなど共通点は多いのですが,矢穴痕が無く,城跡に石垣がほとんどもとのまま残っていることから,安土城から運ばれたのは,あっても少量だと考えられています。石垣の一部に,石田三成の居城だった佐和山城の石材が再利用されていたことは石垣の解体調査で分かっています。

図4 天守石垣にみられる矢穴痕
図5 天秤櫓 右側が築城当時の石垣
図6 天秤櫓西側の石垣 落し積み(江戸後期改修)
図7 天守石垣
図8 天守石垣
 図9 凝灰岩(井戸曲輪付近

 石垣の組み方にも特徴が見られます。奥行きが表面の幅の2倍以上ある長い石を積み上げる「牛蒡(ごぼう)積み」(野面積み*),算木積さんぎづみみ*,落し積み*などが見られるそうですが,私ではよくわかりません。名古屋城などでもよく話題になる刻印のある岩も見られます。刻印は石材を切り出した大名の家紋や,石積みを担当した家臣たちの符号や名称,石工たちの符号や名称,産地の名称などを基に石に刻んだ模様で,石垣の分業化が進むなかで誕生したといわれます。
※彦根城は,関ヶ原の合戦(1600年)の後ほどなく,1604年から天下普請により築城されました。 
  その後,1615年の大坂夏陣以降に実施された工事もあります。
※石垣の組み方
野面積のづらずみ:ほとんど加工されていない自然石を積み上げて,隙間に「間詰石」と呼ばれる小石を詰めます。
・算木積み:横長の石材を短辺と長辺を交互に組み上げます。
・落とし積み:上から石を落とし込むように石を斜め積む方法です。江戸末期の新しい石垣に使われています。

参考・引用文献
彦根市教育委員会,2010,特別史跡彦根城跡 石垣総合調査報告書.彦根市教育委員会文化財課,
  256p.
URL1:https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#14,35.28053,136.26685  産総研地質図Navi

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